か行のコラム

広告や企画、ブランディングサポートなどの仕事の中で「か:考えたこと」「き:気づいたこと」「く:工夫したこと」 「け:経験したこと」「こ:心がけてきたこと」を、100話を目標に書き綴っています。

か行のコラム 第5話

「伝える」と「伝わる」の違い。

伝える側の、楽観的な妄想。

伝えたのに伝わっていない。このことについて考えてみました。「伝える」は、伝える側の“行為”です。一方、「伝わる」は、その伝えたい相手側の“状況”です。だから、伝えたい人が行為”として「伝えた」としても、相手に対して「伝わった」かどうかは別物です。

極論すれば、「伝えたから伝わっているはず」というのは、伝える側の楽観的な妄想です。「伝わる」ことを望んで伝えているので、そうなって欲しいという気持ちはわかります。でも、「伝えたのに、伝わっていない」という状況は往々にしてあり得ます。

縦軸と横軸のある図で考える。

そこで、なぜ、そんな状況があり得るかについて、縦軸と横軸がある図(マトリックス図)で考えてみました。まず、縦軸に「伝える」と「伝えない」を置き、横軸に「伝わる」「伝わっていない」を置きます。これによって、次の四つのゾーンが生まれます。一つ目は、「伝える」×「伝わる」のゾーンです。ここが一番望ましいゾーンです。伝える側が伝えたい相手に対して「伝えて」、それが「伝わっている」という状況になっています。二つ目は、「伝える」×「伝わっていない」のゾーン。ここは、残念な結果になっています。

伝える側が伝えたい相手に対して「伝えて」も、それが「伝わっていない」という状況になっています。原因としては、伝えたい相手が伝える側や伝えられたことに対して関心がないことが考えられます。また、関心があっても伝えられたことが理解できず、結果として「伝わっていない」のと同じ状況という場合もあるでしょう。

意外な結果にも理由がある。

三つ目は、「伝えない」×「伝わっていない」のゾーン。ここは、ある意味当たり前の結果といえるゾーンです。「伝えない」から「伝わっていない」ということは、「伝える」ことにより「伝わる」という状況になる可能性があります。そして、四つ目は、「伝えない」×「伝わる」のゾーン。「伝えていないのに、伝わっている」という状況になっています。そうなる理由としては、「他から既に伝わっている」ことが考えられます。また、伝えられてはいないけれど、普通に考えればわかることだから、「伝えられたのと同じ状況」になっているということも考えられます。

刺さる言葉とその周辺。

そもそも、「伝える」という行為の目的は、その先の変化である、と私は考えています。伝えた先に相手の心の変化や行動の変化などがあって、初めて意味があります。

「伝える」は手段であって、目的ではありません。最近は「刺さる言葉」というワードもよく耳にします。この「刺さる」も状況を表しています。物騒な言い方で恐縮ですが、「刺す」は、行為であり手段です。「刺さった」状況になるように「刺す」わけです。「刺さった」と相手が認識してくれないと、「刺さった」状況とは言えません。

この「刺さった」状況にするためには、ていねいに言葉を選ぶ必要があります。また、「刺さりやすい」部位を探したり、「刺さりやすい」状況になるようお膳立てしたり、「刺さって抜けにくい工夫」を凝らしたりすることも重要です。その工夫については、また、別の機会にコラムでご紹介したいと考えています。


か行のコラム 第4話

キャッチフレーズで、キャッチボール。

相手に認めてもらうために。

仕事柄、キャッチフレーズを考える場面がよくあります。キャッチフレーズは、製品やサービス、自社の取り組みなどに興味を持ってもらうための「きっかけ」をつくる言葉。たった一言で言いたいことをすべて伝えることができたり、「売上アップ」や「認知度アップ」といった願いが叶ったりすれば万々歳なのですが、うまくいくケースはそう多くありません。だから、まずは「きっかけ」をつくって本題につなげていきます。

キャッチフレーズはその名の通り、メッセージの受け手を「キャッチする」役割を担っています。でも、別の視点から見ると、こちらの投げかけを「キャッチしてもらう」ための言葉ともいえます。話の本題に入る前に、まず足を止めてもらい、話を聞く体勢になってもらうというわけです。大切なのは、コミュニケーションというキャッチボールの相手として「認めてもらうこと」。これがなければ、意思疎通は始まらないからです。自分が認めていない人からいきなりボール(=話の本題)を投げられても、相手は迷惑と感じるだけ。無視されても仕方ないでしょう。

 

ワクワクするボールを。

キャッチフレーズを考えるときは、「相手がワクワクするボールって、どんなボールだろう?」「速いボールかな、緩いボールかな?」という気分で考えます。胸元に投げるのがいい場合もあれば、少しジャンプして捕ってもらう方がよかったりする場合もあります。

でも、直球の方がいい場合は、あまりありません。直球は相手がこれまでにたくさん受けていることが多いので、興味を持ってもらいにくいからです。そもそも、直球でよければ、コピーライターに依頼はしないでしょう。もちろん、相手が受けたことのない角度で直球を投げるのはありです。そんな角度が発見できればの話ですが……。

太陽を見習って。

「キャッチフレーズは、相手にキャッチしてもらうためのもの」という視点で書き進めていたら、ふと、イソップ寓話の『北風と太陽』の話を思い出しました。北風と太陽が旅人のコートを脱がせる勝負をする、というあの話です。勝負はご存知の通り太陽が勝つわけですが、北風が力づくでコートを吹き飛ばそうとしたのに対して太陽は旅人が自発的にコートを脱ぐようなアプローチをしました。これからコミュニケーションをとっていきたい相手へは、北風ではなく太陽のようなアプローチが望ましいはず。こちら側がいかに力まないようにできるか、がポイントと考えています。

キャッチボールが続くことを願って。

「心地よい相手」として受け止められたいのか、「刺激的な相手」として受け取られたいのかによっても、投げかける言葉は違ってきます。もちろん、競合他社と同じ言葉を投げかけるわけにはいきません。同じならキャッチボール相手としてわざわざ選ぶ必要がないからです。

キャッチフレーズは、パンフレットやポスター、チラシ、ホームページなど、さまざまな媒体で重要な役割を果たします。こちらからの投げかけだけで終わってしまうのか。それとも相手が自発的に投げ返してくれて、キャッチボールが続けられるのか。変な力が入って暴投してしまわないように気を付けながら、これからもキャッチフレーズを考えていこうと思っています。


か行のコラム 第3話

「うまい」「はやい」「やすい」の順。

「可処分時間」の創出という視点。

アドバイザーとしてサービスエリア運営のスタッフ教育を担当していたときに思ったことです。サービスエリアにおいて「うまい」「はやい」「やすい」の順は、どんな順が適切なのだろうか、と。ご存知の通り、サービスエリアにはさまざまな人が訪れます。観光バスで来る団体客もいれば、マイカーやレンタカーを使う家族連れやカップルもいます。また、トラック運転手や商用車に乗ったビジネスマンも来ます。その人たちすべてに対して一定の順、たとえば「うまい」「はやい」「やすい」の順でよいのか、と思ったわけです。

バス旅行者は、団体行動をとっているので集合時間を守らなければなりません。だれか一人遅れるだけで、バスの出発が遅くなり、みんなに迷惑がかかってしまいます。だから、「はやい」を最優先に考えるのではないか、と。そのような人たちをメインのお客様にするのであれば、サービスエリアのスタッフは料理を提供する時間を短縮したり、おみやげ物を選びやすくしたり、会計をスムーズにしたりするなど、スピードに関して知恵を絞る必要があります。旅行中に使える時間を少しでも多くすることで、お客様はストレスの少ない快適な旅が楽しめます。可処分所得ならぬ「可処分時間」の創出という視点です。「はやさ」が一番前に来て、その次に「うまい」「やすい」がくるのでは、と考えたのは、根本にそういう視点があったからです。

魅力を伝えて、価値>価格へ。

一方、旅先でその土地の名物を味わいたいという思いをもってマイカーで旅に出た夫婦の場合は、「やすい」や「はやい」よりも「うまい」を優先するのでは、と考えました。サービスエリアには、ご当地の名物料理をはじめ、その土地の名産品を使ったおみやげがいろいろあります。しかしながら、レストランやフードコートではそれらの料理を試食することはできません。また、おみやげ品コーナーには一部試食できるものがあるものの、すべてが味見できるわけではありません。そのため、POPやポスター、デジタルサイネージなどで料理やおみやげ品の魅力を伝える必要が出てきます。食材の特徴や調理法、製造法、名前の由来などを言葉と写真で伝えるのはもちろん、調理風景を見せたり香りを漂わせたりすることも大切です。

 

そして、「やすさ」はやはり最後が定位置と考えました。日常的にサービスエリアを利用するトラック運転手やビジネスマンは、懐にやさしいこと、つまり「やすい」に重きを置いているはず。でも、サービスエリアとしては「やすさ」をメインの打ち出しにすることは難しい。また、サービスエリアに「やすさ」を期待している人も少ないと思います。それでも価値と価格のバランスを考えたときに、ご納得いただけるようなメニューの開発や売り方が必要と考えました。重要なのは価値≦価格ではなく価値>価格、というわけです。

「“ここ”をめざして来た」と言われるために。

サービスエリアは曜日や時期によって、旅行客とビジネス客の比率が大きく変わります。平日と週末、行楽・帰省シーズンとオフシーズンなど、それぞれの時期とそのお客様に合った料理やおみやげ品を用意し、打ち出しを変えることが求められます。「たまたま立ち寄った」ではなく、「“ここ”をめざして来た」というお客様をどれだけ増やせるか、がポイントです。

今回はサービスエリアの販促で考えたことを綴りました。次回は、広告のキャッチフレーズについて書こうと思っています。今回と同様に、当たり前と思って来たことを「本当にそうなのかな?」という考えの下、違った視点で見直すと、おもしろい世界が待っている気がします。


か行のコラム 第2話

企業が幸せになる、四つのサムシング。

花嫁が幸せになるという言い伝え。

西洋には四つのサムシング(Something four)を身につけて嫁ぐ花嫁は幸せになれる、という言い伝えがあるそうです。

一つ目のサムシングはSomething oldで、何か古いものを指します。母親から譲り受けたネックレスやイアリングなどがこれに当たります。

二つ目のサムシングはSomething newで、何か新しいものを指します。新しく用意したウェディングシューズや長手袋などがそれです。

三つ目はSomething  borrowed、何か借りたもののことで、すでに幸せな結婚生活を送っている人から借りるリングピローやハンカチなどがこれに該当します。

そして、四つ目のサムシングはSomething blueで、何か青いものを指します。ヘアアクセサリーや青い花のブーケなどがこれに当たるようです。

これら四つのサムシング、いわゆるサムシング・フォーがあることを知ったのは、もう20年以上前のことですが、最近になって、ふと思いました。これは企業にも当てはまるのではないか、と。四つのサムシングを持つ企業は「幸せになれる」、つまり「発展する」のではないか、と。そこで、一つひとつ当てはめてみることにしました。

企業にとっての四つのサムシング。

一つ目のサムシングSomething oldは、何か古いものなので、企業にとっての歴史、伝統、歩んできた道のり、そこで培われた強みなどが該当すると思いました。起業したばかりの人の会社は生まれたてなので会社としての歩みはありませんが、その起業家も一人の人間として人生を歩んで来ているので、自身の強みや長所はあるはずです。

二つ目のサムシングSomething newは、何か新しいものなので、会社がめざしている将来像(ビジョン)や目標など、今のことではなくこれから先のことがこれに当たると思いました。思い描く理想の姿を言葉で表したスローガンもその一つです。

三つ目のサムシングSomething borrowedは、何か借りたものなので、力を貸してくれる仲間や協力者と考えることができます。社員や取引先、株主などのステークホルダー(利害関係者)がこれに当たります。

そして四つ目のサムシングSomething blueは、何か青いもの。元々、花嫁のサムシング・フォーのblueは、聖母マリアのシンボルカラーに由来しているともいわれていますが、私はblueを一つの色として捉えて「その会社のカラー(企業色)」と考えてみました。一般的には企業色(コーポレートカラー)といえば会社のロゴタイプやマークなどで使われているシンボルカラーを指しますが、ここでいうカラーは会社の社風や企業文化、つまり「その会社らしさ」のことです。企業理念や行動指針、会社としてのブランド価値などもこれに当たると思います。

四つを見直して、さらなる高みへ。

このように四つのサムシング、「強み」「ビジョン」「協力者」そして「その会社らしさ」があれば、会社は発展する可能性が高くなる、と思ったわけです。もし、どれかが無いのなら作ればいいし、あるのならもっと磨いたり増やしたりすればいい。「強みを磨く」「ビジョンを描く」「協力者を増やす」「“らしさ”を大事にする」。これらによって、企業はさらなる高みへと導かれることになるでしょう。

今回は、西洋の言い伝え“サムシング・フォー”というものを花嫁から企業に対象を置き換えて考えてみましたが、これと同様に私たちの周りにはあまりにも一般的で気にも留めないものだけど、アレンジ次第で本来とは異なった使い方ができる法則や公式があるはずです。それらが見つけられたら、また、この「か行のコラム」でお目にかけたいと思っています。


か行のコラム 第1話

いかがでシュー。

百貨店でシュークリームを買う意味。

いまから35年ぐらい前、私はある百貨店の販売促進部宣伝課で新聞広告や折込広告、ポスター制作、ラジオCMなどの仕事をしていました。その店は駅前にあり好立地の店ではありましたが、「交通の便がいいから」という理由だけでご利用いただいているのなら少し悲しい。そんな気持ちでいました。働いている者としては、品揃えや接客、取り組みなど、自分たちが関わる何かに魅力を感じていただいてご来店いただきたい。常々そう思っていました。

 今も昔もデパ地下には洋菓子ブランドのショップがたくさん入っていて、その多くがシュークリームを扱っています。私が勤めていた百貨店もそうでした。そんな定番商品であるシュークリームは見栄えや食感などに違いはあるものの、ケーキほど顕著ではありません。だから、これを特集すると、逆にその微差に自然と目が行きます。クリスマスケーキを特集したり、バレンタインのチョコレートを特集したりするのはよくあるし、雑誌でシュークリーム特集をしたというのもあったかも知れませんが、百貨店が自分たちで発行する媒体においてシュークリームというワンアイテムで特集するのはあまり見たことがないのでは、とも思いました。ブランドという枠組みを外して、シュークリームというくくりでまとめ直すことで、路面の個店ではなく百貨店に行く意味、百貨店で買う意味が出てくるはず。そんな仮説による取り組みのキャッチフレーズが「いかがでシュー。」でした。

見た目はあまり差が無いけれど。

シュークリームは、通常は各ショップで他のたくさんのお菓子と共に並んでいます。そのため、とりわけ強調しない限り埋もれてしまいます。でも、広告ならそれだけをピックアップすることができます。売場とは違う形で、お客様の目の前に10種類以上のシュークリームをお見せすることが可能というわけです。ただし、見た目はあまり差が無い。だから、素材や製法、食感、ブランドの背景など、それぞれの特徴を言葉でお伝えする必要があります。そのため、売場担当者にお願いして、撮影後は試食させてもらえるようにしました。さすがに10種以上食べるのは大変でしたが……。 

そんな仕事をしていた宣伝課を“卒業”して20年以上経ちました。独立してからは小売業だけでなく、サービス業や製造業や運輸業、医療サービスなど、さまざまな業種の広告や企画に携わらせていただいていますが、それらの仕事の中でもこのシュークリーム特集のように「一旦枠を外して新たな視点で再編集していくことにより新しい価値を見出す」ということを行ってきました。百貨店在籍時は<リフレーミング>という言葉も知りませんでしたが、振り返ってみると、そういうことだったんだ、といま思います。

枠を外して、ワクワクを創出。

改めて手法という観点から先述の取り組みを眺めてみました。ポイントは3つあると考えます。

一つ目は、「固定観念を脇へ置く」ということ。企画者が固定観念に縛られていると、枠は外せません。シュークリーム・ワンアイテムでの特集にOKを出してもらえたお蔭で企画を実現することができました。

二つ目は、「再編集の視点がユニークである」ということ。洋菓子を例にとれば、その切り口が「アイテム」なのか「素材」なのか「食感」なのか、はたまた「製法」なのか「サイズ」なのか「形状」なのか。お客様の興味を引く切り口でないと意味がありません。

三つ目は「共感を生む表現である」ということ。企画としておもしろくても企画書でお客様にプレゼンテーションするわけではありません。広告や売場でのPOPやカード、商品陳列、装飾などでお客様に共感していただけるものとしてお見せできないと、効果は半減してしまいます。

 手法から入ると、突き抜けるような企画は出てこないような気もしますが、アイデア出しで行き詰まったときなどは、こういった手法を利用するのもありかな、とも思っています。


か行のコラムを始めるにあたって。

百貨店の販売促進部の宣伝課でコピーライターとして働いていた頃、物産展の取材と撮影のために宮城県に出張することがありました。取材先のひとつである仙台箪笥の金具職人の方のお宅を訪ねてお話を伺った後で手洗いを拝借した際に、ある張り紙を目にしました。その紙には“カッカするな”“気にするな”“クヨクヨするな”“ケンカするな”“コソコソするな”という文字が。席に戻ってご主人に張り紙のことをお尋ねすると、ご本人ではなく奥様が書かれたとのこと。そんな「か行」の5文字を使った張り紙を見てから、およそ30年の歳月が経ちました。


その間、宣伝課在籍中も独立開業してからも、仕事を通して多くの方とふれあい、多くのことを学ぶことができました。ワークショップやセミナーなどで、この学びのいくつかをネタとしてお話しすると、皆さん興味深く聞いてくださるので、これは案外いろいろな人のお役に立つかも、と考えるようになりました。そう考えてから、改めて話のネタを整理し始めたのですが、この作業に思いのほか時間がかかってしまい、実際にコラムとして書き出すのが予定より大幅に遅れてしまいました。


学びといっても、あくまでも個人的なものですが、ひとまず100話を目標に書き進めてまいります。仕事の中で“考えたこと”“気づいたこと”“工夫していること”“経験したこと”“心がけていること”を綴る「か行のコラム」。お読みいただければ幸いです。