か行のコラム

広告や企画、ブランディングサポートなどの仕事の中で「か:考えたこと」「き:気づいたこと」「く:工夫していること」 「け:経験したこと」「こ:心がけていること」を、100話を目標に書き綴っています。


か行のコラム 第2話

企業が幸せになる、四つのサムシング。

西洋には四つのサムシング(Something four)を身につけて嫁ぐ花嫁は幸せになれる、という言い伝えがあるそうです。一つ目のサムシングはSomething oldで、何か古いものを指します。母親から譲り受けたネックレスやイアリングなどがこれに当たります。二つ目のサムシングはSomething newで、何か新しいものを指します。新しく用意したウェディングシューズや長手袋などがそれです。三つ目のサムシングはSomething  borrowed、何か借りたもののことで、すでに幸せな結婚生活を送っている人から借りるリングピローやハンカチなどがこれに該当します。そして、四つ目のサムシングはSomething blueで、何か青いものを指します。ヘアアクセサリーや青い花のブーケなどがこれに当たるようです。

 

これら四つのサムシング、いわゆるサムシング・フォーがあることを知ったのは、もう20年以上前のことですが、最近になって、ふと思いました。これって、企業にも当てはまるのではないか、と。四つのサムシングを持つ企業は「幸せになれる」、つまり「発展する」のではないか、と。そこで、一つひとつ当てはめてみることにしました。

 

一つ目のサムシングSomething oldは、何か古いものなので、企業にとっての歴史、伝統、歩んできた道のり、そこで培われた強みなどが該当すると思いました。起業したばかりの人の会社は生まれたてなので会社としての歩みはありませんが、その起業家も一人の人間として人生を歩んで来ているので、自身の強みや長所はあるはずです。

 

二つ目のサムシングSomething newは、何か新しいものなので、会社がめざしている将来像(ビジョン)や目標など、今のことではなくこれから先のことがこれに当たると思いました。思い描く理想の姿を言葉で表したスローガンもその一つです。

 

三つ目のサムシングSomething borrowedは、何か借りたものなので、力を貸してくれる仲間や協力者と考えることができます。社員や取引先、株主などのステークホルダー(利害関係者)がこれに当たります。

 

そして四つ目のサムシングSomething blueは、何か青いもの。元々、花嫁のサムシング・フォーのblueは、聖母マリアのシンボルカラーに由来しているともいわれていますが、私はblueを一つの色として捉えて「その会社のカラー(企業色)」と考えてみました。一般的には企業色(コーポレートカラー)といえば会社のロゴタイプやマークなどで使われているシンボルカラーを指しますが、ここでいうカラーは会社の社風や企業文化、つまり「その会社らしさ」のことです。企業理念や行動指針、会社としてのブランド価値などもこれに当たると思います。

 

このように四つのサムシング、「強み」「ビジョン」「協力者」そして「その会社らしさ」があれば、会社は発展する可能性が高くなる、と思ったわけです。もし、どれかが無いのなら作ればいいし、あるのならもっと磨いたり増やしたりすればいい。「強みを磨く」「ビジョンを描く」「協力者を増やす」「“らしさ”を大事にする」。これらによって、企業はさらなる高みへと導かれることになるでしょう。

 

今回は、西洋の言い伝え“サムシング・フォー”というものを花嫁から企業に対象を置き換えて考えてみましたが、これと同様に私たちの周りにはあまりにも一般的で気にも留めないものだけど、アレンジ次第で本来とは異なった使い方ができる法則や公式があるはずです。それらが見つけられたら、また、この「か行のコラム」でお目にかけたいと思っています。


か行のコラム 第1話

いかがでシュー。

いまから30年ぐらい前、私はある百貨店の販売促進部宣伝課で新聞広告や折込広告、ポスター制作、ラジオCMなどの仕事をしていました。その店は駅前にあり好立地の店ではありましたが、「交通の便がいいから」という理由だけでご利用いただいているのなら少し悲しい。そんな気持ちでいました。働いている者としては、品揃えや接客、取り組みなど、自分たちが関わる何かに魅力を感じていただいてご来店いただきたい。常々そう思っていました。

 

今も昔もデパ地下には洋菓子ブランドのショップがたくさん入っていて、その多くがシュークリームを扱っています。私が勤めていた百貨店もそうでした。そんな定番商品であるシュークリームは見栄えや食感などに違いはあるものの、ケーキほど顕著ではありません。だから、これを特集すると、逆にその微差に自然と目が行きます。クリスマスケーキを特集したり、バレンタインのチョコレートを特集したりするのはよくあるし、雑誌でシュークリーム特集をしたというのもあったかも知れませんが、百貨店が自分たちで発行する媒体においてシュークリームというワンアイテムで特集するのはあまり見たことがないのでは、とも思いました。


これは、ブランドという枠組みを外して、シュークリームというくくりでまとめ直すことで、路面の個店ではなく百貨店に行く意味、百貨店で買う意味が出てくるのでは、という仮説と検証です。広告のキャッチフレーズは、「いかがでシュー。」でした。

 

シュークリームは、通常は各ショップで他のたくさんのお菓子と共に並んでいます。そのため、とりわけ強調しない限り埋もれてしまいます。でも、広告ならそれだけをピックアップすることができます。売場とは違う形で、お客様の目の前に10種類以上のシュークリームをお見せすることが可能というわけです。ただし、見た目はあまり差が無い。だから、素材や製法、食感、ブランドの背景など、それぞれの特徴を言葉でお伝えする必要があります。そのため、売場担当者にお願いして、撮影後は試食させてもらえるようにしました。さすがに10種以上食べるのは大変でしたが……。

 

そんな仕事をしていた宣伝課を“卒業”して18年以上経ちました。独立してからは小売業だけでなく、サービス業や製造業や運輸業、医療サービスなど、さまざまな業種の広告や企画に携わらせていただいていますが、それらの仕事の中でもこのシュークリーム特集のように「一旦枠を外して新たな視点で再編集していくことにより新しい価値を見出す」ということを行ってきました。百貨店在籍時は<リフレーミング>という言葉も知りませんでしたが、振り返ってみると、そういうことだったんだ、といま思います。

 

改めて手法という観点から先述の取り組みを眺めてみました。ポイントは3つあると考えます。
一つ目は、「固定観念を脇へ置く」ということ。企画者が固定観念に縛られていると、枠は外せません。シュークリーム・ワンアイテムでの特集にOKを出してもらえたお蔭で企画を実現することができました。
二つ目は、「再編集の視点がユニークである」ということ。洋菓子を例にとれば、その切り口が「アイテム」なのか「素材」なのか「食感」なのか、はたまた「製法」なのか「サイズ」なのか「形状」なのか。お客様の興味を引く切り口でないと意味がありません。
三つ目は「共感を生む表現である」ということ。企画としておもしろくても企画書でお客様にプレゼンテーションするわけではありません。広告や売場でのPOPやカード、商品陳列、装飾などでお客様に共感していただけるものとしてお見せできないと、効果は半減してしまいます。


手法から入ると、突き抜けるような企画は出てこないような気もしますが、アイデア出しで行き詰ったときなどは、こういった手法を利用するのもありかな、とも思っています。


はじめに

百貨店の販売促進部の宣伝課でコピーライターとして働いていた頃、物産展の取材と撮影のために宮城県に出張することがありました。取材先のひとつである仙台箪笥の金具職人の方のお宅を訪ねてお話を伺った後で手洗いを拝借した際に、ある張り紙を目にしました。その紙には“カッカするな”“気にするな”“クヨクヨするな”“ケンカするな”“コソコソするな”という文字が。席に戻ってご主人に張り紙のことをお尋ねすると、ご本人ではなく奥様が書かれたとのこと。そんな「か行」の5文字を使った張り紙を見てから、およそ30年の歳月が経ちました。


その間、宣伝課在籍中も独立開業してからも、仕事を通して多くの方とふれあい、多くのことを学ぶことができました。ワークショップやセミナーなどで、この学びのいくつかをネタとしてお話しすると、皆さん興味深く聞いてくださるので、これは案外いろいろな人のお役に立つかも、と考えるようになりました。そう考えてから、改めて話のネタを整理し始めたのですが、この作業に思いのほか時間がかかってしまい、実際にコラムとして書き出すのが予定より大幅に遅れてしまいました。


学びといっても、あくまでも個人的なものですが、ひとまず100話を目標に書き進めてまいります。仕事の中で“考えたこと”“気づいたこと”“工夫していること”“経験したこと”“心がけていること”を綴る「か行のコラム」。お読みいただければ幸いです。